リレーションズ+芸術祭・ まちづくり研究連携プロジェクト_フォーラム03「巨大都市東京でボトムアップ型の芸術祭はいかに可能か──東京ビエンナーレの挑戦」①:イントロダクション+ゲスト・中村政人氏+西原珉氏の発表[その1]

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世界有数の巨大都市・東京の都心北部をメイン会場に、ボトムアップ型の芸術祭として誕生した「東京ビエンナーレ」。コロナ禍の混乱を経た2020/21年の「見慣れぬ景色へ」から、2023年の「リンケージ つながりをつくる」へと総合テーマを深化させ、巨大都市の隙間を芸術的な創造拠点へと転化する試みを重ねてきた。そんな「東京ビエンナーレ2023」の総合ディレクターである中村政人と西原珉をゲストに招き、あえて「東京という巨大都市の中心でボトムアップ型の芸術祭を企画し、開催すること」の困難と可能性について語っていただき、ゲストとパネリストの間で意見交換を行った。


日時:2024年5月24日(金)18:30~20:00
開催方式:オンライン配信

ゲスト[五十音順]:
中村政人(東京ビエンナーレ2023 共同総合ディレクター)
西原珉(東京ビエンナーレ2023 共同総合ディレクター)

パネリスト[五十音順]:
暮沢剛巳(東京工科大学・デザイン学部 教授)
河 炅珍(國學院大學・観光まちづくり学部 准教授)
潘 梦斐(國學院大學・観光まちづくり学部 助教)
光岡寿郎(東京経済大学・コミュケーション学部 教授)
村田麻里子(関西大学・社会学部 教授)
山口誠(獨協大学・外国語学部 教授)

モデレーター[五十音順]:
毛利嘉孝(東京藝術大学・大学院国際芸術創造研究科 教授)
吉見俊哉(國學院大学・観光まちづくり学部 教授)


吉見★「リレーションズ+芸術祭・まちづくり研究連携プロジェクト」第3回目のフォーラムを開始します。第1回・第2回は、能登半島の珠洲で開催された「奥能登国際芸術祭」と七尾のまちづくりについて、今年元旦に起きた震災の被災や復興の現状もお伝えしながら議論を進めてきました。第3回となる今回は、フィールドを地方から東京に移し、昨年開催された「東京ビエンナーレ」の挑戦について、総合ディレクターの中村政人さんと西原珉さんにお越しいただいて話していきます。

その前に、実は東京ビエンナーレの一部でもある私たちのこの「リレーションズ」について、このプロジェクトのディレクターであり、本日のフォーラムのモデレーターのひとりでもある毛利嘉孝さんからひと言、ご説明いただきます。

毛利★本日、東京ビエンナーレのこれまでの経緯について話を聞けるのは、とても楽しみです。というのも吉見先生にご紹介いただいた「リレーションズ」自体が、もともとは東京ビエンナーレのいちプロジェクトとしてスタートした試みであり、第1回目の東京ビエンナーレ2022/2021から第2回目の東京ビエンナーレ2023まで、ビエンナーレの参加プロジェクトとして続けさせていただいたからです。

最初、中村政人さんの方から「美術や芸術を巡る批評はすごく大事なので、それに関して何かやってくれないか?」という要請があり、〝批評とメディアの実践プロジェクト〟として立ちあがったウェブ・メディアが「リレーションズ」です。とはいえ、その「リレーションズ」の中で東京ビエンナーレを直接論じるのは、広報記事みたいになる可能性もあり「少し違うのではないか?」ということで、これまで東京ビエンナーレについてはほとんど論ぜずに、東京ビエンナーレ以外の芸術祭やアートプロジェクト、作家や作品を主に追いかけてきました。結果的には、「リレーションズ」の中では東京ビエンナーレ自体について、特に議論してこなかったんです。ビエンナーレ事務局と合同でシンポジウムを開催したことはありましたが、東京ビエンナーレの活動自体を話題にするのは実はこれが初めてなので、議論が楽しみです。

今回このようにオンライン上で公開したフォーラムの内容は、1~2か月後ぐらいに「リレーションズ」の記事として掲載されます。すでに第1回目の「能登半島地震と芸術祭の未来[前編]」の記事は、ウェブ上でアップロードされていますので、ぜひご覧ください。このように、オンライン上で定期開催したシンポジウムを記事化して、ウェブ上に掲載するサイクルで、進めていきたいと思います。

吉見★東京ビエンナーレに関しては、今日、参加されている多くの方が色々な展示を訪れ、プロジェクトに参加されてきたと思いますが、そこで何をめざし、どんなことをやってきたのかについて、まず総合ディレクターでありビエンナーレ全体の仕掛け人である中村政人さんからお話しいただきたいと思います。

中村★中村政人と言います、よろしくお願いします。今日は共同で総合ディレクターを担当されている西原珉さんと一緒にお話しできればと思います。最初に東京ビエンナーレのドキュメント映像をご覧いただき、続いて、2023年の主な展示作品を見ていただきながら、我々が東京ビエンナーレでどんなことをしてきたのかをご説明できればと思います。

東京ビエンナーレの概要

中村★まずは活動地域ですが、東京都心の北東エリアをベースにしています。ちょうどこれは、吉見さんが「東京文化資源会議」をやられているエリアとも重なっていて、東京の西側と東側の歴史的な背景もあり……また、第1回目のビエンナーレが開催された2020/2021年は、ちょうど東京オリンピックの開催がありましたので、先の東京オリンピックで開発された東京の西側と、そうではなかった東側のバランスも、その前提にありました。さらに言えば、我々は神田界隈をベースに「アーツ千代田、3331」の活動をしてきたので、そこを軸にしながら、北は上野・寛永寺あたりから南は東京駅・銀座界隈を中心にしています。

最初のきっかけが2018年で、「アーツ千代田、3331」の中で小池一子さんに声をかけさせていたき、「東京ビエンナーレをやりたいんだけど」って言ったら、開口一番「なぜやるの?」って言われました。小池さん以外からも「こんなに芸術祭が多い中で、今なぜ、東京でそれをやるのか?」という声が、かなり多く聞こえてきました。そんな状況から話が始まり、「WHY、TOKYO、BIENNALE?」というテーマ設定で、まずは「構想展」が企画されました。これは国際公募をする際にOPEN CALLをしたのですが、そういう企画も含めながら、立ちあげてゆきました。

それから、この東京ビエンナーレはボトムアップ形式のプロジェクトなので、最初に市民委員会を立ちあげ、市民委員会のみなさんの意見を吸い上げる形で意思決定を促していく組織を作りました。そうすると、いろんな人の声が一気に聞こえてきて……芸術祭の名前そのものも、最初は別の名前をつけていたのですが、覚悟を決めて「東京ビエンナーレ」にしました。

まずは我々の世代で一緒にやってきた人たちに声をかけて、我々の世代が動くところから、次の世代にまた広がりを持たせる……という発想にしました。あと、キュレーターの考え方が、このプロジェクトの最初のリスクを受け止めてくれる人じゃないと、なかなか1歩がどうしても踏み出しにくかった。東京の場合、お客さんも非常にキャリアがある方たちなので「今までの芸術祭とは違う」部分を考え、「どういう芸術祭が東京にあるべきなのか?」という問いから始めた感じです。

そんな感じで、何個かプレ事業をやっていく中で、大丸有(だいまるゆう=大手町・丸の内・有楽町)地区の三菱地所さんと最初の動きを作っていくことができた。東京駅に対してアクセスしてゆく部分にも非常に難しさがあったので、大丸有エリアがひとつの中心地域になったのは「東京らしさ」を象徴するのではないかと思いました。また、第1回目の「東京ビエンナーレ2020/2021」はコロナ禍が拡大した中での開催だったので、実際には「なるべく外に出ないでください」とか「コンビニに行くのも2日に1回にしてください」ぐらいに言われていた時でした。その時の記憶が、今は随分と薄れていますけれど……。

西原★「来場者が3メートル以内に接近してはいけない」とか、色々な制約がある中で……でも結果的に、新しいやり方や見せ方を開発できた側面もありましたよね。

中村★そうですね。なので、AR(拡張現実:Augmented、Reality)を駆使したり、技術的にも少し先を行っていたので、お客さんがARになかなか辿りつけなかったこともありましたが(笑)。でもテーマ・タイトルが「見慣れぬ景色へ」という……コロナ前に小池一子さんが作ったテーマなのですが……まさしく「見慣れぬ景色」が広がっていた。そもそも「街に人がいなくなってしまった」中で国際芸術祭を立ちあげたわけですから。

第1回目「東京ビエンナーレ2020/2021」を振り返る

中村★ちなみに「TRANS ARTS TOKYO」という企画を、僕らは東京ビエンナーレを立ちあげる前から神田でやっていたので、街の中でアートプロジェクトを仕掛けていくことはすでにやっていた。なので、そういう意味では継続的に行われていたプロジェクトが、もうすでに何本か走っていたわけです。そうしたソーシャルプロジェクトを受け止めながら、新しいプロジェクトが起こるとき、その場所や人や地域に「どういうふうに入っていくのか」あるいは「誰と何を一緒に作っていくのか」という部分から、フレームワークを作っています。以下、いくつかの作品やプロジェクトを紹介します。

▼池田晶紀「いなせな東京」

現代の“江戸っ子”を写し出すポートレイトとして、撮影と発表が行われています。様々な景色とともに切り取られてきたポートレイト写真からは、言いようのない江戸っ子の「粋」をはらんだ「いなせな」姿が見え隠れします。

▼「野営」

「野営」は、公募で入ってきたユニークなチームで、めちゃめちゃパワフルでユニークな集団です。画面に映っている《東京大屋台》は全くの違法建築なのですが、堂々とルールを無視して、どんどん建物を広げていった。

▼藤浩志「kaekko Expo.」

不要になったおもちゃが体育館に並べられて、すごかったです。「kaekko(かえっこ)」というプロジェクトもここ10年以上、3331 Arts Chiyoda周辺でやってきたので、子供たちはもう、(そこに行けば)新しいおもちゃに変えられるという思いが定着しているんですね。

▼栗原良彰《大きい小さい人》

打ち水をすることで冷却される素材を使い、新しい彫刻を作る試みです。こういうチャレンジをする作家にみんなで資金援助をしたり、そういう活動を通じて東京という磁場に対して、どうアクセスしていけるかを作家自身も問われましたし、アクセスしていったところで、どのように実現するのかというマネージメントの部分も問われました。

▼伊藤ガビン「モダンファート 第2号 特集 社会的距離の思い出」プロジェクト

伊藤ガビンさん流に、それこそコロナ禍で、色々な新しい社会的距離なる概念が生まれてきたので、それらの概念をアイロニカルに展示したものです。

▼西村雄輔《Spirit of the Land 〈地の精神〉》

西村くんには前回のビエンナーレでも出ていただいたのですが、12階建てビルの階段の狭い隙間に、地下から12階まで関東ローム層の地層を山からそのまま取ってきてパイプに詰めて垂直に並べる作品など、非常にチャレンジブルなものが生まれています。

▼Hogalee《In the CBD》

この後、あちこちで引っ張りだこになっているHogaleeさん。東京のパブリックアートと言ったとき、大型のものだと非常にお金がかかるのですが、サイト・スペシフィック・アートのようにその場だけで成立するものもあり、賞味期限が短くても、そこで実現すること自体に対して、場を持っている人たちと交渉しながら形にしていく取り組みに、少しずつ実現性が生まれてきました。

▼O JUN《絵と目》

このO JUNさんの作品も、設置されたビルが立て壊されてしまい、今はもう存在しないのですが……やはり作家がその場のために作っていくこと自体、置物彫刻的な作品がどうしても多くなるなかで、その瞬間を楽しむこと自体を、地所さんの側も理解していただけるようになってきた。作品を作ることで、双方の距離が縮まってきました。

▼井田大介《Anything is better than the truth!》

ものすごい大理石の大壁なのですが、そこから発想して、ギリシャ彫刻とか西洋絵画的な文脈をARで観ることができる作品です。

 *

東京の神田明神であったり、日ごろ芸術作品が置かれない場所でプロジェクトを起こしてゆくので、まずは場所との関係作りのハードルが非常に高い。でも逆に言うと、一度関係ができたところでは(制作活動が)続けやすくなる特徴もあります。

西原★アーティストも、一時的にその場にコミットすること……従来のアートプロジェクトはもう少し作家の手に委ねられている感じなのですが、東京ビエンナーレではそれぞれの場所との関わりで、一時的にせよ、場所と人々にコミットしてプロジェクトを行うということがノーマルになっていく、そういう過程があった気がします。

▼commandN「天馬船プロジェクト2023/日本橋川」

中村★これは「天馬船プロジェクト」という富山県氷見市から始まった河川文化活動の東京版ですが、僕が「神田川に天馬船のミニチュアを1万艘浮かべる」と言ったために1万艘のミニ天馬船を間伐材で制作することとなった。参加するために1艘千円でドネーションして、自分の船が持てる仕組みです。やることは上流から下流にミニ天馬船を流すだけなのですが、川の関係者の全員に会わないといけなくて、これが本当に大変でした。都、区の行政から屋形船まで水辺の関係者をつなぎ許諾を得ることの、まあまあ難しいこと。でも、2021年にこれを神田川で実現できたので、2023年には日本橋川で行い、今度は、千葉市で行う事が計画されています。

「東京の地場に発する国際芸術祭/見なれぬ景色へ/純粋×切実×逸脱」という総合テーマで、2021年7月10日から9月5日まで行われました。以上が、第1回目の活動記録です。

【②:ゲスト・中村政人氏+西原珉氏の発表[その2]】に続く。

[テキスト・ウェブサイト編集:木村重樹]

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中村政人(なかむらまさと)
東京ビエンナーレ2023総合共同ディレクター
1963年秋田県大館市生まれ。アーティスト。東京藝術大学絵画科教授・副学長。
「アート×コミュニティ×産業」の新たな繋がりを生み出すアートプロジェクトを進める社会派アーティスト。
2001年第49回ヴェネツィア・ビエンナーレ、日本館に出品。マクドナルド社のCIを使ったインスタレーション作品が世界的注目を集める。
1993年「The Ginburart」(銀座) 1994年の「新宿少年アート」(歌舞伎町)でのゲリラ型ストリートアート展。
1997年からアーティストイニシアティブコマンドNを主宰。秋葉原電気街を舞台に行なわれた 国際ビデオアート展「秋葉原TV」(1999〜2000)「ヒミング」(富山県氷見市) (2004〜2016年) 、「ゼロダテ」(秋田県大館市) (2007〜2019年)など、地域コミュニティの新しい場をつくり出すアートプロジェクトを多数展開し、2010年民設民営の文化施設「アーツ千代田 3331」を創設(2023年3月閉館)。
「東京ビエンナーレ2020/2021、2023」総合ディレクター。「千葉国際芸術祭2025」総合ディレクター。著書に「美術と教育」(1997)、写真集「明るい絶望」(2015)、「新しいページを開け!」(2017)、「アートプロジェクト文化資本論:3331から東京ビエンナーレへ」(2021)。平成22年度芸術選奨受賞。2018年日本建築学会文化賞受賞。
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西原珉(にしはらみん)
東京ビエンナーレ2023総合共同ディレクター
キュレ—ション、心理療法士、東京芸術大学先端芸術表現科准教授、秋田市文化創造館館長。90年代の現代美術シーンで活動後、渡米。ロサンゼルスでソーシャルワーカー兼臨床心理療法士として働く。心理療法を行うほか、シニア施設、DVシェルターなどでアートプロジェクトを実施。2018年日本に戻ってアートとレジリエンスに関わる活動を試行中。米国カリフォルニア州臨床心理療法士免許。東京ビエンナーレ2020/2021では参加作家として「トナリプロジェクト」を推進し、東京ビエンナーレ2023においても継続した活動を展開する。

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